ガザル~ハーフェズ

 イランの三大詩人といえば、ほとんどのイラン人がサアディー、モウラヴィー(日本ではルーミーの名で知られている)、そしてハーフェズをあげるはずです。
 これまでサアディーとモウラヴィーの詩はご紹介してきましたが、ハーフェズの詩は紹介していませんでした。これは彼の詩が非常に難解であるからです。

 ハーフェズは14世紀に活躍した詩人で、抒情詩における最高の詩人とされています。彼の詩は神秘主義的な色を非常に強く持っており、その意味を解釈するには神学や神秘主義に関する深い知識を必要とします。しかし、そうした知識がなくともその詩の美しさは人々を引きつけ、「神秘の舌」の異名を彼に与えるほど、人々に好まれてきました。

 彼はサアディーと同じくシーラーズに生まれ、生涯のほとんどをこの街で過ごしました。偉大な詩人を二人も産み出したシーラーズは、現在、薔薇と詩人の街と呼ばれているほどこの二人によって名高いほどです。

 ハーフェズは抒情詩を数多く作詩しましたが、その中でも有名な詩の一つが下にあげるものです。



あのシーラーズの乙女が我が心を受け入れてくれたなら
その黒きほくろの代わりにサマルカンドもブハーラーも与えよう
酌人よ!残りの酒をつげ!天国においてさえ求めることのできぬものは
ルクナーバード(※1)の流れる岸とムサッラー(※2)の花園
ああ、都を騒がせる楽しく優美な舞姫たちは
トルコ人が略奪を行う如くに我が心から忍耐を奪い去った
恋人の美に我らの不完全な愛が必要であろうか
美しき顔には白粉、つけぼくろに描いた眉などはいらぬもの
私は知っている。日に日に増すユースフ(※3)の美しさにより
愛はズライハー(※4)を貞節の帳の中から誘い出す
罵られようとも、私は汝に祝福を捧げよう
甘く赤き唇には苦き答えがふさわしい
愛しきものよ、忠告に耳を傾けよ!
幸福なる若者たちが命よりも愛するのは老いた賢者の忠告
楽師や酒を語り、運命の秘密を探るな
この謎は知性によって解けるものではなく、これまでにも解いたものはおらぬ
ハーフェズよ!汝は抒情詩を作り、言葉の真珠を連ねた
さあ、楽しく歌え!汝の詩により大空はすばるの首飾りをまき散らそう




(※1)シーラーズを流れる川の名
(※2)シーラーズ郊外の花園の名
(※3)聖書の預言者ヨセフのこと
(※4)エジプト王パロ(ポフティヤル)の妻。クルアーン(コーラン)の中では、ユースフのあまりの美しさに懸想し、思いを遂げようとユースフに迫り、拒まれると策を講じて彼を牢獄へ入れてしまう女性として描かれている。



 この詩については後世、一つの逸話が語られるようになりました。
 この詩の冒頭の一節を知ったティームール(日本ではチムールの名で知られる)が、「我が剣を振るって諸国を平定し、多くの国や都市を破壊したのは、我の愛する都であるサマルカンドとブハーラーを反映させるためであった。それなのにお前は、たかがシーラーズの乙女のほくろの代わりに我がサマルカンドとブハーラーを与えるというのか!」と怒ると、ハーフェズはティームールの足下にひれ伏しこう答えました。
「世界の王者よ!こうした気前の良さのため、私はこのように落ちぶれてしまいました」
 ティームールはこの答えが気に入り、褒美を授けたというのです。
 歴史的年代に鑑みて、このような逸話のような出会いはあったとは思えないのですが、後世の詩人伝などにはこの逸話が事実として収録されています。

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この記事へのコメント

elly
2005年12月30日 18:37
難解な詩をとても美しく訳されていますね。
うっとりしてしまいます。
イランはイスラーム革命以降の厳格なイメージだけで理解されがちですが、こういう詩的感性や美を享受する部分があることも一般に知られると良いなと思います。
ハーフェズと言えば、ハーフェズ占い。
難解な詩を、一般のイラン人はどのように解釈しているのでしょう。それとも、詩が民衆にも普及しているイランでも、やっぱり教養人しかそのような占いはやらないのでしょうか。
2005年12月30日 20:01
ありがとうございます。
この詩は比較的訳しやすかったので助かります。

ハーフェズの表面的な酒や美女への思いと神秘主義的な神への愛を日本語に置き換えるのは難しいですね。

でも、占いなどでは表面的な意味を自分なりに解釈することで十分成り立つようです。
また、道ばたで売られているハーフェズ占いですと解釈も書いてあったりするので、それを読めば意味が理解できるということもあります。

本ブログの方でも触れていますけど、シャベ・ヤルダーではハーフェズ占いはよく行われていますよ。で、みんなでどういう意味だろうね、などと解釈し合ったりしています。
2005年12月31日 21:56
解説付きの詩集、というか占い本もあるのですね!それにしてもやはりイランでは広く深く詩が浸透しているのですね。話はずれますが、イランの教育ではひたすら暗記が重要だと聞いたことがあります。初等教育から詩をみっちり頭に叩き込まれたりしているんでしょうね。
去年のシャべ・ヤルダーの記事、未読でしたので、早速読ませていただきました。ハーフェズ占いの話もさることながら、garmとsardの話等、大変ためになりました。寒いときに冷たいものを。。。って、ある意味東洋医学とは全く逆の発想で、おもしろかったです。
さらさんの両ブログの他の記事もまだ未読のものがたくさんありますが、少しずつ読ませていただきます。日本はあと2時間ほどで新年です。来年もどうぞよろしくお願いいたします。
2006年01月08日 03:57
道ばたで売っているのは、本というより、おみくじみたいに紙を折りたたんだものです。

文学に興味はないという人も多いですが、学校で習ったという詩をすらすらと暗唱して見せてくれる人も結構多くて、びっくりすることがありますよ。

こちらこそ、今年もまたよろしくお願いします。

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